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大人になってこんなに怒鳴られたのは初めて

アルル国際写真フェスティバルへの旅 10日目

  1. 怒りに震えるレビュアー
  2. 自分の作品は自分の好きなように作るべし
  3. カメラマガジン編集者とのレビュー
  4. 作品ではなくケースに興味津々
  5. 不思議な伝言ゲーム
  6. フランスのタクシー料金はドライバーの言い値
  7. 別れはやっぱり辛い

怒りに震えるレビュアー

午前中最後の3人とのレビューを控えていた。一番最初の人が唯一の女性。フランス人だが英語が話せると書いてあったので入れてみた。

会場についてすぐにレビュー開始。まずは握手をしてにこやかにご挨拶。早速写真を見てもらった。しかし写真を見た途端、たちまち彼女の顔が険しくなる。そしていきなり「あなたはなぜ花を撮らないの?これはsculptureでしょ?なぜ花を撮らずにこれを撮ったの?」とイライラした口調で聞かれた。

頭の中で「花は何かの象徴?それとも花そのもの?sculptureって彫像という意味だっけ???」と全く理解できなかったので「すみません。sculptureとはどういう意味でしょうか?」と尋ねた。

その瞬間彼女は大きな音をたてていきなり立ち上がり、手を上げて会場のスタッフを呼んだ。「だれか!!英語の分かる日本人を見つけてきて!!」とすごい剣幕でヒステリックに叫ぶので、私はすっかり縮み上がってしまった。

他の参加者たちも何事かとこちらを見ている。私は必死で説明書を見せながら作品の説明を試みる。しかし彼女は私の前に手をかざして”Stop!”と一言。どうして?参ったなあ。どうしてこんなに怒っているのかな?

困っていると日本人と思われる人に片っ端から声をかけていたスタッフが一人の日本人男性を連れてきた。「すみません。」と小さな声で謝ると、「僕で分かるのかなあ。」と苦笑しながら隣に座った。

もうレビュアーは一切私の方を見なくなった。体ごと彼の方を向いて「なぜ彼女は花を撮らないのか?これはsculptureでしょ!!」と明らかに怒った口調で彼に詰め寄る。

訳がわからない私は彼に自分の作品について説明を試みる。「長い年月をかけて元の形を失うほど崩れていくものの時間の経過を作品にしたかった。タイトルの”Waiting for the Time Passing”とはそういう意味だ。」と伝え、「ドライポイントで花のシリーズも作ったけれど、今回はこちらのシリーズを持ってきた。」とも説明した。

彼は彼女にそれを通訳してくれているのだが、それでも「なぜ?なぜ?」の一点張りで怒りは収まらない様子。彼も結局sculptureの意味がわからなかったらしく、なぜあんなに怒るのかとても不思議がっていた。

穏やかな彼は小声で「きっとこの人、ものすごく女性的な人で、花が大好きだから撮って欲しかったんだよ・・。」と無理矢理な解釈をつけてくれた。しかし彼女の言葉だけでは真意が全くわからず、その後辞書でsculptureの意味を引いてみても、彫刻や彫像以外の意味は見当たらなかった。

20分間のレビューで心底疲れ切って座り込んでいると、フィリップとアニエスが心配そうに走ってきた。私と背中合わせでレビューを受けていたらしいが、こちらの騒動が気になって仕方がなかった様子。スタッフに大声で通訳を探させている様子も見ていたらしい。

フィリップは「僕も数日前、彼女のレビューを受けたけれど、これまでで一番きつかったし、怒ってばかりいたよ。おかしいのは彼女の方だから気にしないようにね。」と必死に慰めてくれた。隣でアニエスもなんどもうなずいている。毎日毎日彼らに助けられているなあと感謝の気持ちでいっぱいになった。

瞬間的に凹んだことは確かだけれど、私は自分でも驚くほど気にしていなかった。もしこれが1日目の1人目だったら、すっかり自信を無くして、あとの9人とのレビューにもきっと大きく影響しただろう。自信喪失を取り戻せないまま、10人とのせっかくのレビューを台無しにしてしまったかもしれない。

しかし、「大きいサイズで見たい」とか「紙質を変えてみたらどうか」という共通点以外は、これまでのレビュアー全員が全く違う意見だった。

「この写真がいい」と選んでくれたものもバラバラで、全く共通点がなかった。もっと技法をシンプルにと言った人もいれば、もっと複雑に手を入れた方がいいと言った人もいた。「これは写真じゃない。」と取り合わなかった人や「すごく面白い!」と食いついた人もいた。

自分の作品は自分の好きなように作るべし

結果私は今日までの間に、どんなエキスパートでも結局は主観的に写真を見るし、全てはほぼ個人の好みに依存するものであることを知り、結局好きなように思うままに作品を作ってもいいのだ、という結論に達していたのだ。だから今日のハプニングも受け流すことができた。最終日で本当によかったと心から思った。

後日談になるが、日本に帰ってきてから数人のアメリカ人にこの時の彼女の話をし、”sculpture”ということになぜそこまで激怒したのだろうかと聞いてみた。彼らによると”sculpture”とは人が作った作品という意味で使ったのだろうとのこと。

つまり彼女は、私が他人が作った芸術作品を撮影して、自分の作品として提出したのだと思ったのではないかと言う。確かにそれならあれほど怒るのもうなづける。

しかしそう思われたのならとても光栄なことだ。私が撮ったのはただのゴミの山なのに、それを人が作った作品だと勘違いしたなんて。

あの時レビューの最初にまず、いつものように私は英語で書いた説明を手渡したのだが、「そんな説明はいい」とそれを読むことなく、いきなり写真を見はじめた。もしその説明を読んでいれば、写真が全て金属プレス工場横のゴミ捨て場で撮影したものだと言うことがわかっただろう。

私の方も彼女が言う”sculpture”の意味を理解できていれば「いいえ、これは人が作った芸術作品を撮ったのではなく、ゴミを撮ったのですよ。」とすぐに説明することができたのに。いずれにしてももうお互いの真意を伝え合うことはできない。

カメラマガジン編集者とのレビュー

引き続きすぐ、今度はオーストラリアのカメラマガジンの編集者とのセッション。彼はまず説明をじっくり読んで、一通り写真を見てくれた。全部見終わってから彼は私にカメラマガジンを1冊見せながら、この雑誌はノーマルフォト半分と新しい技法半分で構成されていることをゆっくり丁寧に説明してくれた。

そして「この技法はとても面白い。新しい技法の分野に入る写真だ」と言ってもう一度最初から順番に私の写真を見ていき、今度は彼が好きな作品を選び、なぜ好きかを優しく話してくれた。他のシリーズはないのかと聞くので、ポストカードにしてきたドライポイントのひまわりを見せる。

彼はそれを見て「自然とこの人工的な線のコントラストがとても面白いので、自然のシリーズをもっと作って欲しい。作ったら是非見せて欲しいと言ってくれた。できれば大きな作品で送って欲しいと連絡先を教えてくれた。

ほらやっぱり人によって全然反応が違うと改めて思った。

作品ではなくケースに興味津々

最後の人はあまり英語が得意ではなく、文章にして喋るのが難しいらしく、ポツリポツリとわかりやすいキーワードで話してくれた。やっぱり大きなプリントで見せるといいということ、それから光沢紙ではなくマット紙の方がいいということ。どれが描きすぎでどれがちょうどいうかなど、要点だけ言ってくれるのでかえってわかりやすかった。

そんな話はすぐに終わったのだが、彼が一番気になっていたのは私が作品を入れて言ったフォトフォリオケースらしかった。「これはどこで手に入れた?と聞かれたので自分で作ったこと、中のタイトルもレザーカービングで彫刻したことなどを話すと驚いた様子でなんどもひっくり返して見ていた。

不思議な伝言ゲーム

これで10人全員終了。1人20分のレビューとはいえ、全部で200分。とてつもなく長かった。ようやく解放されて清々した気持ちで会場に座っていると、隣に座っていた年配の女性に話しかけられた。どうもイタリア語らしく全くわからない。外を指差してしきりに顔をあおいでいる。外はとても暑かったと言っているらしかった。

私がバッグから扇子を出して横からあおいであげると、私のケースを指差して見せて欲しいという。(たぶん)蓋を開けて写真を出すと、すぐに隣にいた恰幅のいい陽気な感じのご主人と席を代わった。

彼はフォトギャラリーの名刺をくれて、真剣に写真を見ている。訳がわからないので黙っていると、なにかしきりに私に言ってくる。理解できなくて困り果てていると、彼は立ち上がって大きな声で周りにいる人たちに何か声をかけた。

その声で集まった人たちは、イタリア語がわかるフランス人、フランス語がわかるアメリカ人など数人ずつ。どうも今から彼がいうことを私に伝えろと言っているらしい。

数人を経て最終的に私に伝えられたことを要約すると、10月に行われる帽子のフェスティバルのカタログ撮影を私にやって欲しいとのこと。しかしもちろん、そんなはずはない!私の写真を見て、カタログを撮って欲しいというのは考えられないので、おそらく通訳の何人めかで意味が変わってしまったのだろう。それはそれで内心面白いなと思った。

連絡先を欲しいというので、最後の1冊の「マイ・フォト・デイズ」と名刺を渡すと、今度はそのフェスティバルで、この本を紹介してもいいか、と聞いているという。曖昧すぎて意味がわからなくて困っていると、結局しびれをきらした彼が「日本人の友達がいるから説明して連絡させる。」という結論になった。(通訳が全員正しければの話だが)電話がくるまで真意は闇の中。ただイタリアギャラリーオーナーだということは名刺からわかったし、いい話につながればいいな、と思いながら握手して別れた。

フランスのタクシー料金はドライバーの言い値

とにかくこれで全部終わった!フォトフォリオ会場に別れを告げてイギリスの写真学校に通っている二人の日本人学生、あきちゃんとつかさくんと3人で私のホテルに向かうことにした。二人はロンドンの写真学校を今年卒業。今朝ホテルをチェックアウトしたものの、荷物を預かってもらえなかったらしく、重そうなスーツケースを引きづってフォトフォリオ会場に来ていた。鉄道の出発時間まであと数時間あるので、駅から近い私のホテルに荷物を置いてあげることにしたのだ。

歩いて持っていくにはかなりきつそうだったので、3人でタクシーに乗った。いつもはボロボロの小さなタクシーなのに、来たのは大きな黒塗りのピカピカのワゴン車。なんだか高そう…と少し不安になった。

乗り込んでみると、あ!このタクシーちゃんとメーターがある!私がいつも乗っていたのにはメーターに紙が貼ってあって見えなかったから、今日はちゃんとした値段を確認できる。いつもは片道10ユーロ。会場を出発してからずっとメーターを見ていた。そろそろホテルに着くというころ、メーターはまだ5ユーロ!ああ、やっぱりあのタクシーは倍の料金を取っていたのだなと確信した。

と、思ったら、タクシーはホテルの前を通り越して無駄に街中をぐるぐる回って7.5ユーロまでメーターが上がったところでホテルの前に戻ってきた。まったくどうしてフランス人はこんなにずるいことをするのだろう。そしてドアをあけ「10ユーロ」という。

え??さすがにあきちゃんが怒って「No! No! No!7.5ユーロ!!」と頑張ったけれど、大きな荷物を載せたから10ユーロだと言い張る。今まで大きな荷物もなしにボロボロのメーターを目張りしたタクシーに10ユーロずつ払ってきた私っていったい・・・。

フランス人はちゃんと気を付けていて、その都度抗議しないと、平気でうそをついて人をだます。でもフランス語しか話さない運転手さんに抗議するのは、英語が堪能なあきちゃんやつかさくんにさえ不可能。だまされているとわかっていても払うしかないのだ。

別れはやっぱり辛い

それから3人でしらみつぶしにたくさんの展覧会場を回って写真を見て歩いた。あちこちで写真史がそのままわかるような素晴らしい展覧会をたくさん開催している。「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルのオリジナルプリントもあった。彼は幼児のヌードばかリ撮っていた。写真の検問が始まったのは、彼のこの性癖がきっかけだったそうだ。

それからアンリ・カルティエ・ブレッソンのプリントも見ることができた。本当に贅沢な展覧会ばかり。見ている間、学校でちゃんと写真史を弁k等している二人からいろいろ説明してもらった。この二人には今回本当にいろいろなことを教えてもらった。私の娘と変わらないほど若いのに、とてもしっかりしていて、写真への情熱も本物だ。

途中3人でカフェに入り、あきちゃんは「生ハムとメロンのサラダ」を注文。フランス語はわからないけれど、生ハムが大好きなので「ジャンボン」という単語だけはしっかり覚えてきたのだそうだ。

それなのに出てきたものはサラダの上に山ほどのメロンを刻んだだけのもの。あれ?生ハムは?と思っていると隣で同じものを注文したアメリカ人老夫婦にもそれぞれメロンだけのサラダが運ばれてきた。「生ハムじゃなくて、ただのメロンのサラダを注文しちゃったんじゃない?」と言ってみたけれど、あきちゃんは納得できず、ちゃんと店員さんを呼んで「ジャンボン!」と訴えた。

すると「お~~!」と言ってさものせ忘れたかのように、笑顔でお皿を下げて山盛りの生ハムを載せてきた。お隣の二人は生ハムなしで全部食べてしまった。ばれなければそれですましてしまおうという意識らしい。ばれれば、忘れていたかのように載せればいいというマニュアルなのか。まったくとんでもない。

しかもこの時、何度呼んでも、彼は煙草を吸いながらほかの店員さんと談笑していて、こちらには「これが吸い終わったらね」というような、しぐさを見せていた。日本では考えられないが、気を抜くと簡単にだまされてしまうなどつくづく思った。

それからいくつかまた展覧会を見て、そろそろ時間になったので、ホテルに戻り、荷物を取って2人は駅に向かう。毎日キラキラしたきれいな目で話しかけてくれたあきちゃんと、たくさんの大切なことをおしえてくれたつかさくん。

最後の時、私は全く目を見ることができず、「じゃあね。気を付けてね。駅はまっすぐだから」とつっけんどんに言ってお別れ。バイバーイと二人が出ていき、ホテルのErickが私になにか話しかけたけれど無視して階段を駆け上がり、部屋に駆け込んでしばらく大泣きした。ダメだな。私はまったく。

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Published inアルル国際写真祭

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